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小説 小はん殺し結城純一郎の演説 (14)

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 広島六区で選挙運動を大展開中の江堀貴之は夜、東京に帰ってきた。六本木ヒルズのマ
ンションから東京が見える。待っていろ、いまにこの帝都と日本を征服してやる。野望に
萌えながら、貴之はウィスキーを飲んだ。貴之は日本中からホリホリモンと愛称で呼ばれ
ている。人間掘削機こそホリホリモンだった。ホリホリモンは昨年、日本野球機構へと掘
削機をかましたが、楽天にもっていかれてしまった。想定内だよ、とホリホリモンはマス
メディアに説明した。

 今年の早春に掘削機でぶちかましたのが、ニッポン放送への仕掛けだった。掘って掘っ
て堀続けろ。親会社のフジテレビが根をあげるまで、ぶちかませ! そうホリホリモンは
二十代の若手専務、熊谷史也に命令していた。人間掘削機ホリホリモンはライブ・デ・ド
アのオーナー社長でもあった。

 ホリホリモンの脳内からは興奮麻薬が分泌されていた。選挙運動ほど祭りの興奮度は抑
揚し、脳内から興奮麻薬が分泌しエネルギーが体に充満する。政治とは陰謀を仕掛ける企
業買収と同様に興奮する。癖になることは間違いなかった。ホリホリモンの選挙事務所は
尾道駅のそばにあった。握手をするたび、広島六区人からエネルギーを吸い取っていった。
政治とは人を騙す謀略だった。改革とはホリホリモンにとって買収だった。

 改革のロゴが白抜きされた黒いTシャッツ軍団に囲まれたホリホリモンは子供に人気が
あった。遠慮なくホリホリモンは子供の新鮮な未来エネルギーを握手で吸い取っていった。
特に小学生の未来エネルギーは元気がついた。

 ライブ・デ・ドアは東京を中心にしたマーケット戦略から、日本総体を射程に入れた戦
略に転換していた。日本を征し、世界に挑戦するゲームプレイヤーこそ、ライブ・デ・ド
アだった。そのとき、首相秘書官の飯田勲から、衆議院に出馬してみないか、と誘いがあ
った。ホリホリモンは面白いと判断した。さっそく、熊谷文也に命じて、選挙対策室を立
ち上げた。

 翌日、ホリホリモンは六本木ヒルズマンション住人の期日前投票所である、麻布区民セ
ンターに行って、生まれてはじめての投票をしてきた。マスメディア報道クルーが金魚の
うんこみたいに今朝もついてきた。

「比例区は公明党に投票してきました」そうホリホリモンはカメラの前で叫んだ。広島六
区で創価学会との選挙互助協定が成立したからであった。

 午後、ホリホリモンは有楽町にある日本外国特派員協会に向かった。記者会見が設定さ
れていた。会場には、三十人ほどの外国人記者が待ち構えていた。

ーーー自民党の結城純一郎首相をどう思いますか? ロイター通信の記者が質問してきた。
「自民党から出てきた“突然変異”ですね」

 ホリホリモンが答えると、会場から笑い声が起きた。

「あの人は自民党を上からクーデターで新しい党に作り変えてしまったんですよ。彼の独
裁が勝ったと思う」

 ホリホリモンはそう説明した。

ーーー広島六区で争っている亀田さんをどう評価していますか?

「あの人は共産主義者ですよ。亀田さんは旧来のばらまき型政治の象徴。そんな亀田さん
を選んでどうするんですか。今の日本は破産寸前。それを助長している象徴は亀田さん。
白黒はっきりさせたい。郵政民営化反対派は壊滅しますよ」

 ホリホリモンはキッパリと宣言した。

ーーー皇室も民営化すべきだとお考えですか?

「天皇制は象徴ですけど、権力もないし、それほど前面にもでてこないし、憲法が、天皇
は日本の象徴である、というところから始まるのには違和感がありますね。歴代の首相や
内閣が、象徴天皇制を、何も変えようとしないのは多分、右翼の人たちが怖いからじゃ、
ないですか。日本の国家体制は大統領制にした方がいい。特にインターネットが普及して
世の中の変化のスピードが速くなっている。リーダーが強力な権力を持っていないと、対
応していけないのが二十一世紀ですよ。日本を変えようと思ったら、自分が大統領になる
のが一番の近道です。国民が直接選挙で選べる制度に変えていかないといけない。大統領
制にした方がいい。日本の議院内閣制には問題がありますね。政治家に優秀な人材が入っ
てこない。世界的に優秀な政治家が出てこない。そういう状況を私は変えたいんです」

 ホリホリモン節はとどまるところを知らなかった。

 外国特派員協会による記者会見が終了し、ホリホリモンは東京駅から広島行きの新幹線
に乗った。なにもかもが古い体制のままだ、何も更新されずによどみながら腐ろうとして
いる、ホリホリモンの感覚スピードから見ると日本はどうしよもなく、腐食に安住してい
た。亀田をなんとしても落としてやる、決意がみなぎった。ホリホリモンはどこでも眠れ
る体質だった。JRの列車弁当を食べると、そのまま眠りについた。名古屋駅で目を覚ま
してしまった。ホリホリモンはウィスキーを飲みながら、バックから本を取り出した。睡
眠誘導のために読み出したのは、アンダーグランド小説だった。それは自分の名前が出て
いるふざけた怪文書小説だった。
by gumintou | 2006-09-09 14:29 | 小はん殺し結城純一郎


混沌から


by gumintou

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